シェイプウェアのOEM生産では、デザイン画だけでは必要な情報が足りません。狙う補整感、着用時のフィット、素材の伸び、縫製方法、サイズ公差、ネームや包装までを一つの仕様書にまとめたシェイプウェア・テックパック(shapewear tech pack)が、サンプル精度と量産の再現性を左右します。
よいテックパックは、工場に「どう作るか」を丸投げする書類ではなく、ブランド側の意図と確認基準を共有するための運用文書です。数値や素材特性が未確定なら推測で埋めず、未決定項目・選択肢・承認が必要な点を明示します。これにより、見積もり、試作比較、修正指示、量産判定を同じ基準で進めやすくなります。
まず製品とターゲットフィットを定義する
テックパックの最初に置くべきなのは、「何を、誰のために、どのように補整する商品なのか」という製品概要です。たとえば同じハイウエストガードルでも、日常の軽い整肌感を求める商品と、イベント用に強いシルエット補整を目指す商品では、素材、パターン、縫い代処理、サイズ設計が変わります。
製品概要ページに入れる項目
- ブランド名、スタイル名、スタイル番号、改訂番号
- 商品カテゴリー
例:ボディスーツ、ウエストニッパー、ロングガードル、ヒップアップショーツ、補整キャミソール
- 想定する販路と着用場面
例:インナーとして日常着用、ドレスの下、産後向けとして企画する場合の設計条件
- 主なターゲット体型とサイズレンジ
- 補整したい部位と優先順位
例:下腹部、脇腹、ウエスト、ヒップ、太もも、バスト下
- 着圧・補整感の方向性
例:「強い」だけでなく、着脱性、長時間着用時の快適性、段差の出にくさとの優先関係
- カラー、展開予定サイズ、初回と継続生産の想定
- 類似品と異なる点、絶対に守りたい見た目・機能
「細見え」「苦しくない」といった表現だけでは、製造仕様にはなりません。何と比べて、どの部位で、どの条件なら成立と判断するかを書き換えます。たとえば「座位でもウエスト口が大きく食い込まない」「薄手のボトムスの下で前中心の縫い目が目立ちにくい」のように、確認可能な状態に落とし込みます。
また、ターゲットフィットは基準サイズを決めるだけでは不十分です。日本市場向けの商品であれば、表示サイズの考え方、ヌード寸法の範囲、着用時に許容する伸長率、試着評価に使う体型条件を分けて記録します。仕上がり寸法だけでフィットを判断すると、伸縮素材ならではの差を見落とします。
テクニカルフラットと縫製指示を作成する
テクニカルフラットは、商品を正面・背面・必要に応じて側面や内側から見た線画です。ファッションイラストではなく、切替線、縫い目、部品位置、左右対称性を正確に伝える図として作成します。画像が精密でも、どの線がデザイン線で、どの線が縫製線か曖昧なら、工場ごとの解釈が生まれます。
フラット図で可視化する内容
- 前後身頃、マチ、ウエスト部、脚口、ストラップ、ホックなどの形状
- パネルの切替位置とパーツ境界
- 二重仕立て、裏当て、パワーネットなどのレイヤー範囲
- 縫い目の位置、トップステッチの有無、テープやゴムの通し方
- ロゴ位置、プリント位置、ケアラベル位置
- ホック、ファスナー、ボーン、シリコングリップなどの付属位置
- 左右で仕様が異なる場合の明示
フラット図には番号付きのコールアウト(引き出し注記)を付け、図と仕様表を対応させます。注記は「ソフトな縫製」のような主観表現ではなく、構造と処理を示します。たとえば「前中心はフラットな縫い合わせ仕様」「脚口は指定ゴムを内側に取り付け、外観にステッチを出す/出さない」といった書き方です。
縫製仕様は「見た目」と「方法」を分ける
補整下着は、同じ見た目でも縫製方法の違いが肌当たり、伸び、強度、段差に影響します。そのため、次の二層で指示します。
- 外観要件:縫い目が肌側か表側か、厚みや段差をどこまで抑えたいか
- 構造要件:縫い代の始末、重ね方、縫製タイプ、補強箇所、伸縮性の維持条件
ただし、ブランド側に縫製方式の指定知識がない場合、無理に特定の方法を断定する必要はありません。「この部位はアウターに響きにくい薄い仕上がりを優先。実現可能な仕様をサンプルで提案」と記し、採用した方法をサンプル後に固定する方が安全です。
素材や補整構造の選択肢を整理する段階では、シェイプウェアの技術・開発アプローチも参照しながら、デザイン要件と製造上の成立性を切り分けるとよいでしょう。
BOM(部材表)で素材と副資材を一意にする
BOM(Bill of Materials)は、製品を構成するすべての材料と副資材を一覧化した部材表です。テックパックの中でも、見積もり、調達、色管理、品質確認に直結するページです。「ナイロン混のパワーネット」のような大まかな記載ではなく、工場が同じ材料を手配・再現できる識別情報を持たせます。
BOMの基本項目
| 区分 | 記載する内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 表地・主素材 | 部材番号、素材名、混用率、色、編み・織りの種類、供給元情報 | 伸縮方向、透け、回復性、ロット差 |
| 裏地・補強材 | 使用部位、重ねる範囲、色、片面・両面の別 | 肌当たり、摩擦、厚みの増加 |
| ゴム・テープ | 幅、色、伸び、使用位置、表裏 | ウエスト・脚口への食い込み、波打ち |
| 金具・ホック | 種類、サイズ、色、個数、取付位置 | 肌接触、開閉性、耐久性 |
| ネーム類 | ブランドネーム、サイズネーム、洗濯表示、原産国表示 | 表示内容、縫い付け位置、法令確認 |
| 包装資材 | 個装袋、台紙、シール、外箱の要件 | バーコード、サイズ識別、梱包単位 |
素材には、可能な限りスワッチ(生地見本)番号、色見本番号、承認日、改訂履歴も結び付けます。色名だけでは、ベージュやブラックであっても色差の基準が共有できません。特に、表地と裏地、ゴム、糸、ネームの色を合わせる商品では、どの部材を色基準にするのかを決めます。
混用率、目付、幅、仕上げ加工などは、確定情報のみを記載します。まだ候補比較中なら「候補A/候補B」「サンプルで評価後に決定」とし、勝手な代替を認めない部材には「変更前に書面承認が必要」と明記します。
寸法表と採寸箇所を追加する
シェイプウェアの寸法表は、完成品を平置きで測るためだけの表ではありません。着用時に伸びることを前提に、パターンの意図と検品方法を共有する基準です。採寸箇所(POM:Points of Measure)を図示し、各サイズの規格値と許容差を表にします。
必ず定義したい採寸条件
- 平置き・自然状態で測るのか、軽く整えて測るのか
- どの方向に測るのか(直線、曲線、周囲)
- 前後を合計するのか、片面値を記載するのか
- ウエストや脚口を伸ばした状態で測る必要があるか
- ホックをどの段で留めるか、ストラップをどの長さにするか
- 洗濯前・洗濯後のどちらを判定対象にするか
POM図には、各箇所に番号を振ります。例として、ウエスト幅、前股上、後股上、ヒップ幅、裾幅、総丈、脇丈、マチ幅、ストラップ長などです。ただし、一般的な名称でも測定位置が異なることがあります。「ウエスト幅:上端を自然状態で水平に測定」のように、文章と矢印で示してください。
仕上がり寸法とヌード寸法を混同しない
販売用のサイズ表に載せるヌード寸法と、工場が作る製品の仕上がり寸法は別の表で管理します。補整着は仕上がり寸法がヌード寸法より小さくなることがあり、両者を同じページに混在させると誤読の原因になります。
許容差(公差)は重要ですが、根拠なく厳しく設定しても管理不能になります。生地の伸縮性、縫製部位、測定の再現性、商品機能を考慮し、工場と測定方法をすり合わせて設定します。初回サンプルでは仮値とし、承認サンプルを基準に見直す方法も有効です。
着圧ゾーンと生地挙動を文章と図で記録する
補整機能は、素材の混用率だけでは伝わりません。同じ生地でも、地の目、パネル形状、二重使い、ゴムの配置、縫い目の伸び止めによって、身体への働き方は変わります。シェイプウェア・テックパックでは、どこをどの方向に支え、どこは動きやすさを優先するかをゾーン別に記録します。
ゾーンマップに含める内容
- 補整対象部位とゾーン境界
- 補整の相対的な強弱
例:軽・中・強、またはブランド内で定義した段階
- 伸びやすくしたい方向、抑えたい方向
- 二重パネル、補強テープ、パワーネットの使用範囲
- 通気性や肌当たりを優先する範囲
- 動作時にずれやすい箇所、丸まりやすい端部への対策
- 縫い目・ゴムが補整感に与える役割
ここで避けるべきなのは、裏付けのない圧力値を記載することです。圧力は着用者の体型、姿勢、サイズ、生地状態、測定方法で変化します。測定設備や試験条件、合格基準を確立していないなら、数値を作らず、「下腹部は中程度のホールド感」「脚口は締め付け感より段差の出にくさを優先」のように相対基準と着用評価項目を使います。
生地挙動についても、次を具体的に指定します。
- 縦・横・斜め方向の伸びと回復性
- 着脱に必要な伸び
- 前屈、着座、歩行時に必要な可動性
- 洗濯後に確認する縮み、ねじれ、波打ち
- 薄色時の透け、濃色時の色移りなど、必要に応じた確認項目
補整力を上げるほど商品性が高まるとは限りません。強い生地、狭い開口部、補強の追加は、着脱性、サイズ許容幅、肌当たり、縫製難度に影響します。開発では「最も強い仕様」を探すのではなく、ターゲット顧客に必要な補整と継続着用できる快適性の均衡を決めることが重要です。
ネーム、包装、アートワークを別紙レベルで指定する
表示や包装は量産直前に追加されがちですが、部材、工数、販売運用に関わるため、初期テックパックから管理します。画像ファイルを添付するだけでなく、どのデータが正式版か、どのサイズ・色で使用するか、印刷や縫製の許容範囲を明確にします。
表示・ネームで確認すること
- ブランドネーム、サイズネーム、洗濯表示の種類と取り付け位置
- 表示内容、使用言語、文字サイズ、素材表示などの確認責任者
- 肌に触れるネームの素材、角の処理、縫い付け方法
- サイズの見え方と、カラー・品番の識別方法
- ロゴの色、寸法、位置、公差、向き
- 版下データの形式、改訂番号、承認済みファイル名
日本で販売する場合、家庭用品品質表示法をはじめ、商品カテゴリーや販売形態に応じて必要となる表示を確認する必要があります。テックパックに法令解釈を推測で書くのではなく、確定した表示原稿を版下として管理し、最終責任者と確認日を記録するのが実務的です。
包装については、個装状態で商品がどう畳まれ、どの面が見えるかを図で指定します。ハンガー、台紙、封緘シール、バーコードラベル、セット梱包の有無、外装箱への入数など、必要な範囲を分けて記載します。通販向けと店頭向けで包装が異なるなら、SKU単位で混在を防ぐ管理が必要です。
サンプル確認と改訂ルールを先に決める
サンプルの完成度を上げるには、評価する段階と、各段階で変更できる範囲を先に決めます。サンプルごとに目的が曖昧だと、同じ問題を何度も修正したり、承認後に基準が変わったりします。
一般的なレビューの進め方
| 段階 | 主な確認目的 | 承認前に残してはいけない事項 |
|---|---|---|
| 開発サンプル | シルエット、構造、素材候補、補整方向の確認 | 大きな構造上の懸念、素材選定の未整理 |
| フィットサンプル | 基準サイズの寸法、着脱、肌当たり、動作時のフィット確認 | POMの曖昧さ、サイズ基準の不一致 |
| サイズセット確認 | サイズ間のグレーディングと着用バランス確認 | 特定サイズだけに起きるずれ・食い込み |
| 生産前サンプル | 承認仕様での外観、部材、表示、包装確認 | 未承認の代替部材、版下・梱包の誤り |
各サンプルに対するコメントは、口頭やチャットだけで完結させず、改訂番号付きのテックパックに統合します。コメントには、少なくとも以下を含めます。
- 該当ページ、部位番号、写真番号
- 現状と修正内容
- 修正理由と優先度
- 「確認」「修正」「提案歓迎」「変更不可」の区分
- いつから有効な指示か
- 指示者、承認者、日付
「ウエストを少しゆるく」のような指示は避けます。どのサイズの、どのPOMまたはパーツを、どの状態で、どのように変えるのかを指定します。数値が決められない場合は、比較対象のサンプル、着用写真、許容・不許容の判断条件を添えます。
工場側からの代替案や技術的な懸念は、変更履歴に残して採否を判断します。承認済みサンプルと最新版テックパックの内容が食い違う状態は、量産トラブルの大きな要因です。
量産可能なテックパックとして発行する
量産用テックパックは、情報量が多いだけでは完成しません。工場、調達、品質管理、ブランド担当者が、どれが最新版で、何を基準に確認すればよいかを理解できる状態が必要です。
発行前のチェックリスト
- スタイル番号、カラー、サイズ、改訂番号が全ページで一致している
- フラット図、BOM、寸法表、ゾーンマップの部材名・番号が一致している
- 全POMに測定方法、規格値、許容差がある
- 確定事項と未決定事項が視覚的に区別されている
- 素材・副資材のスワッチまたは承認見本が参照できる
- ロゴ、表示、包装の正式アートワークが紐付いている
- サンプルコメントが反映され、変更履歴が更新されている
- 代替可能な部材と、事前承認が必要な部材が区別されている
- 量産前サンプルの承認状態と承認者が記録されている
- 品質確認項目、検品水準、必要な試験の有無を関係者間で確認している
テックパックは、PDF一式だけでなく、改訂履歴、元データ、承認済みアートワーク、スワッチ参照、サンプル写真を関連付けて保管すると管理しやすくなります。ファイル名には、スタイル番号、改訂番号、発行日を含め、旧版が誤って使われない運用を作りましょう。
OEM先を比較する際の確認基準
テックパックを渡す前後には、工場が補整衣料の構造をどの程度理解しているかも確認します。単に対応可否を聞くのではなく、素材提案の範囲、サンプルでのフィット調整方法、部材調達時の代替承認フロー、量産前の仕様確認方法などを比較すると、進行体制を見極めやすくなります。
OEM、ODM、プライベートブランドでは、ブランド側が用意すべき設計情報の深さが異なります。ゼロから独自仕様を開発する場合は詳細なテックパックが重要であり、既存ベースを活用する場合でも、変更箇所と承認基準は明文化すべきです。OEM・ODMのプロジェクト対応のように、開発からシリーズ生産までを扱うパートナーであれば、どの段階で仕様を確定させるかを事前にすり合わせることができます。
よくある質問
テックパックがないとOEM生産はできませんか?
簡易な依頼や既存型のアレンジなら、写真、口頭説明、参考品から始めることはあります。ただし、サンプル修正や量産に進むほど、仕様を文書化しないリスクが大きくなります。少なくとも、製品概要、フラット図、部材、寸法、変更履歴は早い段階で整備することをおすすめします。
着圧は数値で書かなければなりませんか?
必ずしも必要ではありません。圧力測定の方法、体型条件、測定位置、合格基準が確立していない数値は、誤った期待値になります。まずはゾーン別の強弱、伸縮方向、着用時の評価基準を定義し、数値管理が必要な商品では測定条件とともに導入します。
初回のテックパックで全項目を確定すべきですか?
確定できる項目は確定し、未決定項目は未決定として管理します。初期段階では素材候補や縫製方法を比較することもあります。重要なのは、仮仕様を確定仕様のように扱わないこと、サンプル承認後に量産用の最終版へ更新することです。
参考品を送れば採寸表は不要ですか?
不要にはなりません。参考品は方向性を伝えるのに有効ですが、サイズ基準、許容差、素材変更後の挙動、ブランド独自の優先事項までは保証しません。参考品のどこを踏襲し、どこを変更するかをテックパックに記録してください。
シェイプウェアの開発では、見た目、補整感、着用快適性、量産再現性を同時に管理する必要があります。まずは対象商品の構造とフィット要件を一枚に整理し、サンプルレビューを通じて測定値と部材を確定させましょう。企画の起点づくりには、シェイプウェア製品のラインアップを確認し、必要なカテゴリーや構造を比較するのも有効です。





